2009年4月23日木曜日

火山のもとで "Under the Volcano"

英語原文:http://asotir-movieletters.blogspot.com/2009/04/under-volcano.html

今夜は「火山のもとで」を見た。マルコム・ローリーの傑作小説の映画化で、ジョン・ヒューストンが1984年に監督した作品だ。

主人公はアルコール中毒の元英国領事(アルバート・フィニー)で、物語は1938年の「死者の日」を中心に展開される。彼は四六時中、驚くべき量の酒を飲んで過ごしている。彼の妻(実際は元妻)のイボンヌ(ジャクリーン・ビゼット)が戻ってきて、もう一度、彼とやり直そうとするが、領事は、彼女が自分の腹違いの弟(アンソニー・アンドリュース)と浮気をしたことを許すことも忘れることもできない。そして悪意のシンボルである片田舎にそびえる火山のもとで彼の人生は終わる。

ずっと前、この映画ができる前だと思うが、作家ローリー、彼の人生、そしてこの小説の創作についてのドキュメンタリーを見たことがある。小説からの抜粋とメキシコの映像がたっぷり散りばめられたドキュメンタリーだった。僕は衝撃を受け、以来いつもこの小説を読みたいと思っていたが、実際に読むことはなかった。なぜなら酔っ払いの惨めな様子が何百ページにもわたって語られていると思うと、読む前に気が滅入ってしまったからだ。映画が公開された時は、このドキュメンタリー映画ほどは良くないだろうと思い見なかったが、いつもこの映画には興味があったし、今日ついに見ることができた。

奇妙な偶然だが、カメラを担当したのはガブリエル・フィゲロアで、この映画より25年も前に製作された「ザ・ヤング・ワン」を担当した(少なくとも同じ名前の)カメラマンだ。だが、この映画の色調は明るすぎ、十分、様式化されていないように思えた(もう一つ、くだらない難癖をつけるとすれば、フィニー、アンドリュース、そしてほとんどの俳優たちの髪の長さは、30年代というより80年代風だった)。

最初は、巨匠ヒューストンらしさが出ていない作品だと思ったが、ファシスト達が、特に理由がないのに領事に嫌がらせをし、場末の汚い酒場と倉庫の外で、雨と泥に塗れた領事を犬のように撃ち殺すクライマックスの場面はすさまじく、またパワフルだった。

フィニーはいい演技をしているが、ビセットには驚いた。彼女がこれほど多面的で、深い感情表現をしているのを見たことはない。彼女が60年代の終わりに「ブリット」、フランクシナトラの探偵映画、サーファー映画などに出演してハリウッドデビューしたことは憶えていたが、彼女はまだ単なるモデルだった。でもそれから二十年後、彼女は観客を納得させるだけの演技力と体験を身につけていた。

ヒューストンと脚本家たちは忠実に原作を映画化したのではなく、ある程度脚色したのではないだろうか。映画には、近づきつつある戦争についてのテーマが色濃く打ち出されているが、ドキュメンタリーでその部分が出てきた記憶はない。例えばこの映画では、冒頭に近い部分で、赤十字の公式イベントに出席した領事がドイツ大使を侮辱して騒ぎを起こす場面がある。死者を移送するのに急行列車のみを使用し、死者の親類はファーストクラスのチケットを手にそれに同行するというメキシコの習慣について領事はわめきはじめる。そして立ったままの死体や、切り刻んで袋に詰められた死者でぎゅうぎゅう詰めの列車にまで話を誇張する。もちろん、それから数年後には(第二次大戦が始まり)、実際、東ヨーロッパで収容所へ向かう死の列車が現れることになる。

ヒューストンは30年代にメキシコに住んだ。その他にもメキシコに時々滞在して、多くの映画を撮った。この作品は原作だけではなく、そうした彼の思い出に基づいて創作されたものかもしれない。もしかしたらヒューストンがメキシコを訪れたときに、ローリーと会ったことさえあるかもしれないが、真相はわからない。

もう一度、ドキュメンタリーを見たいと思う。この映画は良かった。とても良い。でもドキュメンタリーの方が、僕の記憶の中ではこの映画よりもっとパワフルだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿